未踏の青

井の中の蛙、大海を夢見て

長期投資の新潮流となるか!?レバレッジド・バランスファンド②(各社商品比較)


前回の記事では、レバレッジド・バランスファンドの総論として、そのアイディアの基本を整理してみた。今回は、各社から発売されている投資信託商品を比較していきたい。

 

比較対象は以下の4つ。

日興AM グローバル3倍3分法ファンド

大和証券 米国3倍4資産リスク分散ファンド

楽天証券 米国レバレッジバランス・ファンド(USA360)

アストマックス ウルトラバランス世界株式

 

ざっと投資対象等をまとめてみると以下のようになる。

  日興3倍3分 大和3倍4資産 USA360 ウルトラ
日本株 ※20% 0% 0% 計80%
米国株 計20% ※50.8% 90%
先進国株(除く日米) 0% 0%
新興国 20% 0% 0%
日本REIT 20% 0% 0% 0%
米国REIT 14% 38.20% 0% 0%
海外REIT(除く米) 6% 0% 0% 0%
日本国債 ※40% 0% 0% ※35%
米国国債 ※40% 15.9%+※153.1% ※270% ※70%
独国 ※40% 0% 0%  
英国債 ※40% 0% 0%  
国債 0% 0% 0% ※70%
豪国際 ※40% 0% 0%  
証拠金 20% 45.90% 10% 20%
0% ※56.5% 0% ※35%
費用 0.484% 1.13% 0.49% 0.74%

※印は先物による取引

3倍4資産についてはマンスリーレポートから実際の割合を引用。その他は目論見書を基に作成した。

 

四社四様だ。

まず投資対象として採用している資産クラスや、対象地域、割合が異なってくる。全世界に投資するか否か、米国に限るとして株以外の資産クラスを債権に限るか否か、という比較をするとわかりやすくなるだろうか。

大和3倍4資産以外の投資信託は、全ての投資対象でレバレッジをかけた先物取引をしているわけではない。どこでレバレッジ先物取引を活用しているかで個性が出ている。

直感的にはどの資産にどれだけのレバレッジをかけるかによって、リスクリターンは変わってくるように思え、単純に接点ポートフォリオの全てにレバレッジをかけた場合とは異なるパフォーマンスになる気もする。

そうだとすると、レバレッジETFだけで構成する可変的レバレッジポートフォリオとは様子が異なってくる。

総合的な影響は私には想像も及ばないので、さしあたりポートフォリオ理論の面で各資産割合から導かれるリスク・リターンはどうかを見ることとし、レバレッジをかけている資産の違いは、流動性金利リスクを注視すべき市場の違いと捉えておくにとどめたい。

また、前回の記事でまとめたように、レバレッジ・バランスファンドに長期投資するならば、分散効果すなわち逆相関の存在とレバレッジ先物によるコストを長期的にチェックしていく必要があるため、比較の際はチェックのしやすさという面でも考慮したい。

 

日興AM グローバル3倍3分法ファンド

 

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交付目論見書より

 まずは、昨年登場した元祖レバレッジド・バランスファンドである日興AMの商品を見てみよう。

海外先進国株式の枠はMSCI-KOKUSAI(ヘッジなし)マザーファンドへの投資。海外新興国株式の枠は、MSCIエマージング(ヘッジなし)マザーファンドへの投資。日本REITJ-REITマザーファンド、海外REITは海外リートインデックス(ヘッジなし)マザーファンドへの投資となっている。すなわち、これら計80%の枠ではレバレッジ先物取引の活用はない。

他方、残り20%を証拠金として、先物取引を行っている。日本株式で20%分、債券では合計200%分、合計11倍のレバレッジだ。株式やREITが全て3倍になっているわけではない。

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野村AMのツールにて作成

野村AMのポートフォリオ分析ツールで、同割合で合計100%のポートフォリオを構築した場合を分析すると、過去3年のリターンは5.0%、リスクは4.9%と出た。このポートフォリオを計300%まで持つことになるから、運用資金との関係ではリターン15%、リスク14.7%となる。

現時点でバンガード社の全世界株式ETFであるVTは設定来リターンは5.97%、3年に絞っても9.70%であり、リスク(標準偏差)は11.46%である。リターン、シャープレシオともに優れていると評価できそうだ。

 

リターンの主役となる株式・REITについては、日本株先物のほか、計80%を占める各マザーファンドの運用成績に依存する。とはいえインデックスファンドであるから、市場との乖離を気にしつつも、基本的には経費率でみればよいだろう。

現時点で日本国内市場で購入できる各資産ファンドの最安値は以下のとおり。

eMAXIS Slim 先進国株式インデックス 0.10989%

SBI新興国株式インデックス・ファンド 0.196%

eMAXIS Slim 国内リートインデックス 0.187%

ニッセイグローバルリートインデックスファンド 0.297%

これらに20%ずつ投資するとすると、0.157978%の経費率となる。

(0.10989 + 0.196 + 0.187 + 0.297 ) × 20%

 

このファンドの経費率は0.484%であるから、実質的に0.484% - 0.157978% = 0.326%の経費で、日本株先物・各国国債先物ファンドを買っていると評価することになるか。例えば2倍のTOPIXや3倍の各国国債は1%前後の経費率が相場であるようなので、中々割安とも思える。特に海外債券の先物は日本国内からでは取引しづらく、投資信託ならではの構成だ。

国債が5か国にわたり、分散が効いていると考えることもできる一方で、株・REITとの分散効果がどこまで効いているのか明瞭とはいえない。個人でチェックするのは中々大変そうである。

また各国国債日本株式でレバレッジ先物市場を活用しおり、日米独英豪の市場の流動性と、各国の金利を気にしていかなければならない。

 

大和証券 米国3倍4資産リスク分散ファンド

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2019年11月29日付のMonthly Fund Reportより

大和証券投資信託は米国市場のみを対象としている。また、原物をREITとわずかな米国債のみとしていることが特色だ。

資産クラスの割合は交付目論見書には記載されていないが、マンスリーレポートを見ると、株:債券:REIT:金 ≒ 1:3:0.8:1となっており、金を除けばリスク均等を目指したいのだろうということが伺える。

まず、VUNGUARD REAL ESTATE ETFに38.2%、米国債券の原物に15.9%、おそらく残りの45.9%を証拠金として、S&P500の先物に50.6%、米国債先物に153.1%、金の先物に56.5%となっている。レバレッジは合計でおそよ5.67倍だ。

Portfolio Allocationsのツールを利用して、同種資産クラスの商品に同じような割合で投資した場合、30年で年平均リターンが6.05%、リスク(標準偏差)は5.79%となった。単純に3倍すれば、リターンが18.05%、リスクは17.37%だ。

Vungard Real Estate ETF(VNQ)の経費は0.12%であるから、1.12 - (0.12 * 38.2%) = 1.07416%の経費で米国S&P500指数、米国長期国債、金の先物取引を行っているということになる。レバレッジ3倍のS&P500ETFであるSPXLの経費率は0.95%、レバレッジ3倍の米国債ETFであるTMFの経費率は1.09%であるから、コストとしては妥当なところであろうか。

 実は、4社の中で海外株式にレバレッジをかけているのはこれだけだ。もしかすると、接点ポートフォリオレバレッジをかけた状態に近いのは、この商品だけなのではないか。

 

楽天証券 米国レバレッジド・バランスファンド(USA360)

 

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交付目論見書より

楽天は非常にシンプルだ。

まずバンガード社のVTIに90%、残りの10%を証拠金として、米国債先物に270%を充てる。かけているレバレッジは27倍となる。

VTIの経費率は現在0.09%である。そうすると、為替コストや取引手数料を無視すれば、0.4945% - (0.03% × 90%) =0.4675%のコストで、27倍 × 10% = 2.7倍の米国債先物ファンドに投資することを好むかどうかということになる。

レバレッジ3倍の米国債ETFであるTMFの経費率は1.09%であるから、経費で見れば半額のコストパフォーマンスである。

そして、ここまで単純化してもらえると、27倍の借金をして米国債を買うことでVTIのリスクヘッジをしたいか、という問題だということがわかる。

 

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Portfolio Allocationsのツールにて作成

Portfolio Allocationsのツールを利用して、同種資産クラスの商品に同じような割合で投資した場合、30年で年平均リターンが5.55%、リスク(標準偏差)は4.95%となった。単純に3倍すれば、リターンが16.65%、リスクは14.85%だ。

 

先物を利用しているのが米国債市場のみという点が単純明快。先物市場のリスク、レバレッジのリスク、金利上昇のリスクも米国債券市場だけを見ていればよい。逆に言えば米国金利に大きく依存しているのかもしれない。

27倍というレバレッジをどう評価すればよいだろうか。仮に全損しても10%であるが。国内FXの個人の上限は25倍である。

 

アストマックス ウルトラバランス世界株式

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ジャパネット銀行の特集ページより

まず80%をiShares Edge MSCIミニマムボラティリティグローバルETFに投資している。残る20%を証拠金として、米国債70%、フランス国債70%、日本国債35%、金35%の投資を行う。レバレッジは10.5倍だ。

 リターン、リスクについては、同種ポートフォリオを分析できるツールがみつからなかったので割愛する。

 まず目立つのは株式の枠として採用するETFだろう。こちらは通常、日本国内の証券会社では購入することが出来ない。

https://www.ishares.com/us/products/239605/ishares-msci-all-country-world-minimum-volatility-etf

iShares Edge MSCIミニマムボラティリティグローバルETFは、値動きの低い銘柄で構成される。小型株やバリュー株などと並んで、市場リスクでは説明できないスマートβではないかと目されている低ボラティリティ株である。日本の投資信託にも同種のファンドは存在する。

対象地域は米国、日本、スイス、カナダ、台湾、インド、香港、中国、ドイツ、シンガポール、イギリスだ。

 80%をここに投資しつつ、残りの20%にレバレッジを賭けて、国債や金でリスクヘッジを期待しているということになる。低ボラティリティでリスクを取る分、金をお守りとして利かせているということだろうか。

そして目立つのは仏国債の存在だ。なぜこれが選ばれているのだろうか。対象ETF保有銘柄にフランス株は存在しないが、逆相関が強かったのだろうか。

 日本では買えない低ボラETFを実質的に買えるという希少性はあるが、債券や金との分散効果を長期的チェックするのは個人にとって、少なくとも私には困難だ。

 

総括

 今回は自分の知識不足もあり、かなり雑な比較になってしまった。

つまりは自分の手に負えない投資対象ということなのかもしれない。

しかし基本的なアイデアは理解できるし、魅力も感じる。

 

経費の面でお得と思われるのは、3倍3分と、USA360だ。他方でウルトラバランスの資産構成はよくわからない。

個人的には、日興3倍3分と楽天USA360について検討を続けていきたい。