未踏の青

井の中の蛙、大海を夢見て

【育児】子どものポータブルスキル考察

私は育児の目的を「子どもがどんな幸せを追求したとしても役に立つポータブルスキルの養成」と設定した。では「ポータブルスキル」とは具体的には何だろうか

幼児教育の分野では「非認知能力」と言われているものがこれに該当すると思っていたが、ヘックマン教授の研究についていえば「認知的な能力以外の性質」程度の意味で、具体的な性質が特定されているわけではないように思える。

その後の「非認知能力」に言及する育児関連の論考では、「認知的な能力以外の性質」の内容について様々な定義が試みられているようだ。

以下、いくつかの研究に当たってみたが、最終的には親が選択するしかないという在り来たりな結論に至った。

ベネッセ教育総合研究所の調査

berd.benesse.jp

例えば文科省に報告されたベネッセの研究では「学びに向かう力」、具体的には「自分の気持ちを言う、相手の意見を聞く、物事に挑戦するなど、自己主張・自己統制・協調性・好奇心に関係する力」と定義している。そして、「学びに向かう力」が学習態度や「文字・数・思考」などの認知能力に影響していることを実証したという。

もっとも、この2012年の調査報告を少し読み解いてみると、「生活習慣の育ち」「学びに向かう力」「文字・数・思考の育ち」には関連がみられるということを示してはいるが、例えば「学びに向かう力」の向上が、「文字・数・思考の育ち」に繋がっているという因果関係を示しているわけではない。

上記3つの性質は、複数の要素(「友だちと協力することが出来る」等)の親の評価(「とてもあてはまる」から「ぜんぜんあてはまらない」までの四段階)を数値化して合算したもの。対象とした児童は5歳10か月から6歳9か月までで、調査期間は小学校入学直前に当たる1月・2月。直観的には、月齢や親の関わりの質と量が真の原因となっている気がする。
そうであるとすると「親の子ども自身が考えられるようにうながす働きかけ」と、子どもの「学びに向かう力」「文字・数・思考」に関連がみられるとする調査結果こそ、育児実践の面では参考になりそうだ。

現時点で最新の2019年2月25日の報告では、幼児期に「がんばる力」を身に着けている子どもほど、小学校低学年の「がんばる力・学習態度」も引き続き高く、小4時点での「言葉のスキル・思考力」が高いとし、家庭教育という点では、幼児期から児童期の「子どもの意欲の尊重」と「思考の促し」の重要性が示されている。

「がんばる力」とは、「学びに向かう力」の一部であり、「物事をあきらめずに挑戦する」「自分でしたいことがうまくいかないときでも、工夫して達成しようとすることができる」といった項目から成る。この結論は直観的でもあり興味深いが、気になる点としては、親の働きかけが小学校に上がっても継続しているなど、他の要因の存在が捨象されていないようにも見えることだ。

細かい点は気になるものの、「学びに向かう力」「がんばる力」であっても、「文字・数・思考の育ち」「言葉のスキル・思考力」であっても、子どもに獲得してほしいとは思うのであって、因果関係はどうあれ親の働きかけと相関があるという調査結果は、育児・教育の実践に対する示唆としては十分である気もする。

  • 具体的に子どもの「意欲の尊重」とは以下の7項目
  • 子供がやりたいことを尊重し、支援している
  • どんなことでも、まず子供の気持ちを受け止めるようにしている
  • 何事も子どもの意見や要望を優先させている
  • 子どもが自分でやろうとしているとき、手を出さずに最後までやらせるようにしている
  • 指図せずに、子どもに自由にさせている
  • しかるよりほめるようにしている
  • しかるとき、子どもの言い分をよく聞くようにしている

子どもの「思考の促し」とは以下の4項

  • 子供の「どうして、なぜだろう」などの質問に答えている
  • 子供の質問に対して、自分で考えられるようにうながしている
  • ひとつの遊びには多様な遊び方があることを子どもに気づかせようとしている
  • 子どもと一緒に出かけた後、互いに感じたことなどを話し合っている

OECDの研究

962015011P1 - OECD

社会情動的スキル――学びに向かう力

社会情動的スキル――学びに向かう力

同じように「非認知能力」に注目するOECDの研究では、目標の達成、他者との交流、情動の抑制の3つに係る性質をまとめて「社会情緒的スキル」と名づけている。
具体的には、忍耐力、自己抑制、目標への情熱、社交性、敬意、思いやり、自尊心、楽観性、自信が挙げられている。

同研究で「スキル」とは、①生産性(個人のwell-beingや社会経済的進展)に貢献するもの、②計測可能なもの、③環境や投資によって変化するものという3つの特徴をもつ個人の性質をいい、これを認知的スキルと非認知的スキルに大きく分けた上で、後者を「社会情緒的スキル(Social and Emotional Skills)」と呼んでいる。
認知的スキルも、社会情緒的スキルも、それぞれ様々な生活、社会的適応、心身の健康を予測する(相関する?)ものであると示し、双方のスキルをバランスよく持った子どもを育てる必要性を説く。

加えて、スキルがスキルを生むこと、また、非認知的スキルは認知的スキルを予測するが、認知的スキルは非認知的スキルを予測しないということ(非認知的スキルが認知スキルの獲得に繋がっている可能性)も示している。

以上をまとめると、早期から(双方のスキルのバランスに配慮しつつ)社会情緒的スキルを育むのがよい、ということになろうか。

国立教育政策研究所の研究

非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究

www.nier.go.jp

こちらではOECD等の動向を参考に「社会情緒的コンピテンス」と名付ける。
「『自分と他者・集団との関係に関する社会的適応』及び『心身の健康・成長』につながる行動や態度、そしてまた、それらを可能ならしめる心理的特質」を指し、心理的特質とは、認識、意識、理解、信念、知識、能力及び特性などを含むという。「社会的情緒的コンピテンス」には様々な内容が含まれ得るところ、同研究では、①測定可能であり、一定の科学的研究による知見が得られているもの、②何らかのアウトカムを予測するという知見が得られているもの、③障害における可変性及び教育や環境等による成長可能性を示す知見が得られているものを選定したという。

ちょっと考察

様々な性質が様々に名付けられており、現状、明確な整理がなされているをは思えない。

また、自己主張や自制など、TPOに合わせたバランスが肝心で、常に高ければ高いほど良いとも思えない性質もある。このような性質は、むしろTPOを見極める観察力や、それに応じて最適な態度を見出す思考力、実践する自己管理能力と実行力のようなものがより根本に必要なのではないか。

家庭内の実践を目指しているので、測定は家庭内で実施できるものでなければならない。またTPOに応じてバランスが求められるような性質は、仮に数値化が出来たとしても、最適な値を導くのははなはだ困難であるように思われる。「非認知能力」に着目したとしても、IQのように、簡易なテストで一貫して測定でき、高ければ高いほどよいと言える性質に着目せざるを得ない。

また、いかに名付けようとも、相関があるのは測定した数値であって、例えばマシュマロテストならばマシュマロを我慢できた秒数であって、我慢するという子どもの意思決定が「自制」に基づいたものであるかは別である。

結局のところ、実証研究において「非認知能力」の具体的内容は未だ絞り込まれておらず、「子どものポータブルスキル」が何であるかは、私の信念等に基づく(残念ながら科学的根拠のない)選択が不可避であるように思える。